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釧路家庭裁判所帯広支部 昭和59年(少)297号 決定 1984年6月08日

少年 M・K(昭四一・一一・二〇生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある普通預金払戻請求書一通(昭和五九年押第三一号の二)の偽造部分を没取する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一  別紙非行事実一覧表記載のとおり、単独又はA、B、Cと共謀のうえ、昭和五九年二月二七日午前一時三〇分ころから同年四月一一日午前一一時三〇分ころまでの間前後八回にわたり、北海道河東郡○○町字○○×線×番地○○前に設置された自動販売機内ほか七か所において、Dほか八名の所有又は管理にかかる現金合計約六万一、六〇〇円、物品約二一八点(時価合計約一一四万八、六〇〇円相当)を窃取した

第二  A、Cと共謀のうえ、同年三月八日午前四時一五分ころ、同道白糠郡○○町○×番地○○神社社殿において、さい銭窃取の目的で同所に設置されたE管理にかかるさい銭箱を物色したが、さい銭が入つておらず、その目的を遂げなかつた

第三  同年四月一一日午前一一時四七分ころ、同道帯広市○○町○×線西××番地××○○信用金庫○○支店において、行使の目的をもつてほしいままに、黒色ボールペンで同店備えつけの普通預金払戻請求書用紙の口座番号欄に「〇三〇六六八」、金額欄に「¥二〇〇〇」おなまえ欄に「F」と冒書し、その名下に前記窃取にかかるF名義の印鑑を押捺し、もつて、F作成名義の金二、〇〇〇円の普通預金払戻請求書一通(昭和五九年押第三一号の二)の偽造をし、同支店預金担当の係員Gに対し、これをあたかも真正に成立したもののごとく装い、前記窃取にかかる普通預金通帳とともに提出行使して前記金員の払戻しを求め、同人をしてその旨誤信させ、よつて、ただちにその場において同人から預金払戻し名下に現金二、〇〇〇円の交付を受け、同支店支店長H管理にかかる金二、〇〇〇円を騙収した

ものである。

(適用法令)

第一の各事実につき 刑法二三五条(番号一ないし七の事実については更に同法六〇条)

第二の事実につき 同法六〇条、二四三条、二三五条

第三の事実中、有印私文書偽造の点につき同法一五九条一項、同行使の点につき同法一六一条一項、詐欺の点につき同法二四六条一項

(処遇理由等)

一  少年は、昭和五九年一月二〇日、当庁において、道路交通法違反保護事件により保護観察処分(一般)に付せられたものであるが、その後も職に就くことなく、少年院に送致された少年や本件非行の共犯者である成人方を転々とするなどして怠惰な生活を送り、母親にもその所在さえ判然としない有様で、同年二月以降は保護観察所との連絡も全くない状況であつた。本件各非行は、少年のこのような怠惰な生活と不良交友関係を基礎として敢行されたものであるが、本件各非行の内容を見ると、いともたやすく非行に及び、自動販売機荒し、さい銭泥棒、事務所荒し、友人宅への侵入盗と次第に悪化し、賍品は入質して換金し、盗んだ預金通帳等で現金を騙取するなどしているのであつて、少年は、小学校五年生ころから家の金を持ち出し、中学二年のころから盗みがはじまつていることを考慮すると、その非行性は相当深化しているものと判断せざるを得ない。

二  少年の基本的問題点は、普通域の知能(IQ=一〇〇)を有しながら、社会性に乏しく、客観的な現実の認識、思考ができず、空想的でゆがんだものの見方や考え方をしがちであること、小心で自分に自信がなく、逃避傾向があるが、他方で愛情欲求不満から来るさみしがりやの面があり、自から人づき合いを求めるが、深い人間関係をもつことはできず、表面的な面白おかしさでさみしさを解消しようとしたり、自分を認めてもらおうとして見栄を張つたりしがちであること、自己の不満解消を現実的、建設的な行動によつて解決していくことができず、その場限りの短絡的な行動で発散してしまいがちであることなどにあると考えられる。少年のこのような性格、行動傾向は、幼時から貧しく父母との接触が少ない家庭に育ち、殊に小学校一年の時に父が死亡してからは、母が働くようになり、物心両面において甘えとか依存欲求が充足されず、また、家庭における放任状態のため、基本的なしつけや訓練がなされず、折々の非行性の発現に対しても適切な対応がなされなかつたところから、次第に上記の性格、行動傾向が固定化してしまつたことによるものと考えられる。少年のこのような性格等に、前記のとおり非行性もかなり深化していること、徒遊生活がすつかり身についてしまい、これまで職を転々としているため自立の手段である職業意識や技能が身についていないこと、家庭への帰属感が簿く、母や姉も少年の現状にすつかりさじを投げてしまい収容保護を望んでおり、少年を社会内において更生させるべき社会資源は見当たらないことを合わせ考えると、社会内処遇により少年の更生をはかるのは相当でない。したがつて、少年を中等少年院に送致して、その能力を手がかりに働くことへの心構えを形成し、職業指導により何らかの技能を修得させ、内面的な生長を促進し、対人関係の持ち方を訓練するなど獲得されなかつた社会性や自立力の涵養に努めるとともに、身についた悪しき習慣を矯正することが必要である。

三  なお、本件審判においては、保護者に対する審判期日の呼出状が送達されないまま本件処分をなすものであるが、保護者は、当庁調査官の電話連絡により審判期日を聞いており、そのうえで審判には出頭できないこと、少年を少年院に送つてほしいことを述べているのであり、また、保護者に宛てた審判期日呼出状は、審判前に保護者から連絡を受けたその住居宛に発信したところ、審判の当日になつて転居先不明の理由により当庁に返送されたものである。したがつて、このような事情下においては、もはや保護者に審判期日呼出状を送達することは不可能であり、実質的には保護者に審判立会の機会を与えたうえで、その意向に副つた保護処分をするのであるから、結果的に保護者に対する審判期日呼出状が送達されなかつたとしても、少年及び保護者の利益を著しく害するものということはできず、このような取扱いも違法ではないというべきである。(東京高等裁判所昭和三一年七月二四日決定、家裁月報八巻八号四〇頁、同裁判所昭和三四年一月二八日決定、家裁月報一一巻二号九二頁参照。)

(結論)

よつて、中等少年院送致につき少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三号、没取につき少年法二四条の二を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山下満)

別紙 非行事実一覧表

番号

共謀者

非行日時

(昭和年月日

時ころ)

非行場所

(特に断らない限り北海道帯広市)

被害者

所有・管理の別

被害金額

種類

数量

金額

1

59・2・27

午前1:30

河東郡○○町字○○×線×番地

○○前に設置された自動販売機

管理

現金

約6,000円

2

59・3・6

午前1

中川郡○○町○町×××番地○○神社内

稲荷神社拝殿前

同上

さい銭箱

1個

時価約5,000円相当

3

59・3・10

午前1

○×条北×丁目××番地

○○大社

同上

さい銭

さい銭箱

1個

約3万円

時価約10万円相当

4

59・3・14

午前1:30

中川郡○○町字○町××番地

○○神社拝殿前

同上

さい銭

さい銭箱

1個

約6,000円

時価約45万円相当

5

59・3・26

午前2

○××条南×丁目

○○バッティングセンター事務室

所有

テレビ

1台

時価

約1万円相当

6

59・3・28

午前1:30

河東郡○○町○○大通東××丁目×番地

○○マイカーセンター事務所

同上

テレビ

ラジオカセット

アンテナ

1台

1台

1本

時価約3万円

3,000円

3,600円相当

7

同上

59・3・30

午前1

○××条南×丁目○○××条

店前

管理

自動販売機

煙草

現金

1台

約205個

時価約30万5,800円

3万6,200円相当

約1万9,600円

8

59・4・11

午前11:30

○××条南××丁目×番地

○子方

○子

同上

同上

同上

所有

同上

同上

同上

同上

ビデオデッキ

ラジオカセット

ホッケーバック

現金通帳

印鑑

1台

1台

1個

1冊

1個

時価約15万円

2万円

5,000円

3万円相当

(合計)

現金

物品

約218点

約6万1,600円

時価約114万8,600円相当

勧告書

昭和59年6月8日

釧路家庭裁判所帯広支部

裁判官 山下満<印>

釧路少年鑑別所長殿

少年M・K 昭和41年11月20日生

本籍 北海道帯広市○○××丁目××番地

住居 不定

職業 無職

上記少年に対する当庁昭和59年(少)第297号窃盗、同未遂、有印私文書偽造、同行使、詐欺保護事件につき、当裁判所は、本日、少年を中等少年院に送致する旨の決定をしました。本少年については、今後の自立のため職業補導が不可欠と考えられますので、収容少年院の決定に当たつては、この点につき特段の配慮をお願いしたく、少年審判規則第38条にのつとり勧告します。

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